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小輔は夜に寝る

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一話

一話

「異界より呼びかけに応えよ、我らの最後の希望!」
 鬚を生やした重厚感漂うオーラの爺さんが、くわっと目を見開いてシャウトする光景。
 それがいきなり目の前に現れれば誰だってびっくりするだろう。
 当然俺は驚いた。そしてはわわわと狼狽する時間も与えられずに、視界がブラックアウト。
 ふわりと体が浮かんで、どこか知らない場所へと着地する。
 周囲を見渡せば、そこは中世風のレンガ造りの建物のようだった。
 その大広間、中央に怪しげな魔方陣が描かれた場所の中央に、俺は立っていた。
 どうやら俺は一瞬の間に誘拐されてしまったようだった。
「ぐふっ……、くく、最期にようやく、儂は大陸を救うことが、できる」
 目の前には血を吐いて、地面に膝をつく爺さんが一人。
 爺さんといっても筋骨隆々としており、俺よりも二回りほどでかい偉丈夫だった。
 正直、近づきたくないのでよく解らないけど撤退! と、逃げ出そうとすれば肩をつかまれた。
「わ、なんだっ、離せ、離せって!」
「……待て、小僧。いや勇者よ。時間がないのだ。話を聞け」
 ぐぐぐっと化け物のような握力で、俺の肩を離さない爺さん。
 怖かったので俺はぴたりと動きを止めた。
「な、なんだよ。まさかここは異世界で、魔王に襲われる国を助けられる勇者が俺とか言い出すんじゃないだろうな」
 俺は混乱していたので中二病を患った。
 爺さんは驚愕に表情を染め上げた。
「何と、そこまで理解していたか。それでこそ勇者の資格を持つ者。これで儂も……、安心して妻の下へ」
 ごぷっとまた爺さんは血を吐いた。
 訂正しよう。この世界こそが中二病であったらしい。ヘルプ。
「時間がない。勇者よ、お前も状況を把握しているようだが、この城ももう長くは持たない」
 遠くからは爆音と悲鳴、それに耳触りのする異様な音が聞こえてきていた。
 戦争でも起こっているらしい。
 というか状況から考えて間違いないだろう。鬱だ。
「敵は強大だ。儂の力では奴らを抑えることはできなかった。……だから、ぐふ……だから儂は一か八か、破れかぶれで禁術に手を出した」
 それがお前だ、爺さんは逃げようとする俺を無視して続けた。
「召喚によって呼び出された、素質あるもの、……お前は儂の城に伝わる大地の勇者の遺物を扱える。これが、実物になる」
 おっさんは俺の耳に黒い宝石のような物がついているピアスを取りつけた。
 直に、である。
「あ痛っ!!」
 ぶちっと今まで穴一つあけたことがない俺の耳に、針が通された。比喩が思いつかないほどに、ほんと痛い!
 痛いので転がりまわろうにも、肩をつかまれていたのでできなかった。
「……良いか。聞け。大地の勇者の力は、かの魔王すら凌ぐ。だが力には制限が往々にしてつく。お前の場合は、約二時間といったところだろう。一度使えば、次の朝まで力を使うことは出来ぬ」
「待て待て待てっ! どうして俺が戦うこと前提で話がっ」
「注意せよ。力を失えば、お前はもうただの人としての力しか持たぬのだから」
 爺さんは俺のことを無視しまくりだった。
 これがか弱そうな爺さんだったら蹴りの一つでもいれていただろう。
「……戦うべき時が来たら、唱えるがいい。『母なる大地に感謝を』。それが始動キーとなる」
 そこで爺さんは前のめりに倒れた。俺の肩から手がずり落ちる。
「おい、爺っ、どうした!?」
「そして頼む。儂の末娘、オフィーリアに会うことがあったら伝えてくれ。古いしきたりに囚われず生きよ、と。娘は、そこに転がる杖とまったく同じ装飾の杖を持っている。……見れば分かるはずだ」
 爺はもう立ち上がろうとすらしなかった。だが杖だけは渡そうともがく。しかたがないので受け取った。
 爺さんの背中には焼け焦げたような傷跡がある。
「……最後に謝罪を。お前の、人生を、奪ったことは、決して許されぬとしても、すまなかった」
 爺さんは手足を床に放り出したまま、そう口にした。
 そしてひゅううぅと、長い息を吐いて喋らなくなる。
 死んでしまったのだ。
「な、なんだってんだコレ!?」
 俺にはもう何が何だか。
 死体なんて見たのは初めてだし、混乱してどうしようもない。
 だが混乱することさえ許されず、ドーン! と激しい震動が部屋を揺らす。
 レンガでできた部屋の壁が、爆弾で壊されたように飛び散った。
 出てきたのは爬虫類の親玉のような化け物。
 身長4メートルはありそうな、トカゲ男だった。
「何だ、つまらねえ。北の王様もう死んでたのか。傷の借りを返そうと思ってたんだが」
 つまらなさそうにトカゲは、俺の前で倒れ伏した爺さんを眺めた。
 が、そこで俺と目が合う。
「お前何だ?」
 その威圧感に、俺は答えることができない。
 するとトカゲ男はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「ふん。どうでもいいか。ミンチにすれば後は変わらねえ」
 トカゲ男は、右手に持ったトゲ付き鉄球がくっついた棒を振り上げた。
 どうやら俺を殺すつもりらしい。
 あんなの食らったら俺はお陀仏確定でしかない。
 焦る。怖い。そんな中で、爺さんの言葉を思い出した。
 確か、始動キーを唱えろとか。
 正直毛先ほどにも信じていない言葉だったが、今の状況ではそれ以外に頼れるものなんてなく。
 ゼロコンマ数秒で、そんな判断を下した俺は、やぶれかぶれになって叫んだ。何よりも、生き残りたかったのだ!
「『母なる大地に感謝を!』」
「……何だぁ?」
 突然、変なことを叫び出した俺にトカゲ男は首をひねった。気が狂ったとでも考えたのだろうか。
 だが俺の方はというと、そんなことを気にしている余裕はなくなっていた。
 かっと、体の奥底が熱くなる。
 右耳からもたらされた灼熱が、体全体を覆うような感覚。
 全身の骨が砕かれているような痛みに、俺は膝をついた。
 だが、そんな俺の姿を見て、焦ったようにトカゲ男は叫んだ。
「まさかっ、手前ぇが適格者だというのか!?」
 トカゲ男は倒れる俺にモーニングスターをぶつけようとしてきた。
 俺はよけられない。衝撃が、俺の体を押しつぶそうとする。
 だが、それは俺の皮膚一枚に止められた。
 いや、いつの間にか俺は体の上に黒い鎧のようなものを身につけていたようだった。
 それがトカゲ男の攻撃を防いでいた。
「くそっ、最悪だ! あの王様、こんな置き土産っ」
 焦るトカゲ男。対する俺はおぼろげに状況をつかもうとしていた。
 たぶん、こいつに俺は負けない。
 爺さんが言っていた制限時間を気にする必要もなく、俺はトカゲ男よりも強くなっていた。
 変身ヒーローというやつだ。
 こうなったら、態度がでかくなるのが俺である。
 近くに転がっていたトゲ付き鉄球をつかむ。
 そして逆にトカゲ男を引っ張った。ぐんっと力を入れただけで四メートルを優に超しているトカゲ男が宙を舞った。
 こちらへと飛んでくる。
 それを俺はぐっと拳を握りしめることで迎撃した。頬を思いっきり殴りつける。
 それだけでトカゲ男は回転しながら、城の壁をぶちやぶって外へと飛んで行った。
 飛んでいく巨体を俺は追いかける。そこは既に城の外だった。
 周りを見れば、多くの人間が死んでいた。少し気持ちが悪い。
 外に出た俺は、多くの化け物の群れに囲まれた。
 だけど不思議とやはり怖くない。勇者の力とか言うもののおかげなのだろうか。
 とにかく今すべきことを考えた。
 つまり俺は勇者であるらしい。
 しかも制限時間付きのウルトラマン的ヒーローだ。長時間戦うのはまずい。
 だが、それよりもまずいことがある。
 さっきのトカゲに顔を見られた。
 変身者のお約束で、顔を見られれば不利になるというものがある。
「よし、決めた」
 まわりの雑魚は無視する。吹き飛ばしたトカゲ男だけを狙う。
 まだ立ち上がらないトカゲ男の鳩尾に蹴りを叩きこんだ。トカゲ男は口から血を噴き出させる。
 だが足りない。さらに右手を腹部に突き刺した。貫通する。
 しかし足りない。
 さらに右手で頭部を殴りつけて、首を一回転させた。ごきりっと鈍い音。
 そこでトカゲ男は死んだ。
 俺の正体を知る者がいなくなる。後はやることは一つだった。
 撤退する。よく分からないが、なるべく早く、時間内に化けものがたむろする城から俺は逃げ出した。
  1. 2008/01/14(月) 21:32:48|
  2. 異世界召喚ハーレム
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