催眠モノ。
ある日。死んだ爺ちゃんの部屋にへそくりでも落ちてないか探していると、一冊の本を見つけた。
それは黒塗りのとてつもなく怪しげな本であり 「催眠術指南書」と怪しげなタイトルが書いてあった。
俺はもちろんそんなもの信じなかったが、暇つぶしにその本を読んでみることにした。
書いてある内容はでたらめで、とても正気の人間が書いたものとは思えない。
爺ちゃん、死ぬ間際にもぼけてたんだなあとアンニュイになりながら俺は、その本を机の引き出しの中に放置した。
だが出鱈目な内容でも試してみたくなるのが人情である。
絶対こんな催眠術にひっかかる人間いないよなーと思いながら、俺は近所で犬の散歩をしていた美大生の佐藤さんを見つけたので、試してみた。
「こんにちはー」
「あら、こんにちは。順平君、部活がんばってる?」
「はい。ところで、今はやってるおまじないがあるんですけど、やってもいいですか?」
「おまじない? どんなの?」
「何でも。百人にできたらお金持ちになれるとかいう怪しげなもので」
「昔から変わってないのね。いいわよ」
俺は佐藤さんにまじないと称して、催眠術をかけてみた。
爺ちゃんの本に書いてあった通りの方法で、佐藤さんを催眠術に嵌めていく。そして一分ほど経っただろうか。
それだけで、とろんと佐藤さんの目から正気が失われた。ぼやけた視線を宙に漂わせて、佐藤さんは動かなくなった。
俺はそれにびびった。
だが途中で、理由に思い至る。
つまりこれは佐藤さんの仕掛けたどっきりなのだ。
催眠術を俺がかけようとしていると気が付いて、あえてかかったふりをしている。それだけの話で。
俺はドッキリに引っ掛かるわけにはいかないと思って、佐藤さんに笑いかけた。
「またまたー、やめてくださいよ。びっくりするじゃないですか」
「……」
佐藤さんはノーリアクションだった。オスカーすら狙える演技で、ぼやけたまま宙を見ている。
完全なトランス状態に見えた。有態に言えばラリっている。
俺はこの時点で、とんでもないことに気がついた。
もしかして、この催眠術、本当に効果あるんじゃないか?
それが始まりだった。
結局その日。佐藤さんの催眠を解いてから家へと帰った。
試してみたい、試してみたいという衝動が湧きあがる。
だがこれが効果がなかった場合怖かったので、赤の他人から試してみることにした。
特急で二つ離れた駅まで出向いて、催眠術をかからせることができるような相手を探す。
駅の近くの商店街をうろついていると、その内、客引きに捕まった。
壺に興味はありませんか? と若い姉ちゃんが俺へと親しげに話しかけてくる。
俺はこの姉ちゃんで試してみることに決めた。
話をしながら、客引きの姉ちゃんに催眠術を使う。
すると三分ほど経ってから、客引きの視線から佐藤さんのように正気が失われていった。
トランス状態。
「貴方の名前は?」
「三好佳子です」
「では三好さんは何をしようとしていましたか?」
「ウブそうな学生に高額商品の契約をさせようと思っていました」
質問するたびに、すらすらと客引きの三好は答えてきた。
視線が宙をさまよっているだけに異様な光景だった。
そして俺の背中はこの瞬間に震えた。爺ちゃんの本には、この状態になれば相手に一つだけ命令することができると書かれてあったためだ。
ぼったくりしようとしてきた女だ。何をされても文句は言えない、と欲望が囁いた。
「では、三好さん。これから貴方に一つだけ命令をします。いいですか?」
「はい」
「それでは命令を伝えます。今から貴方は騙そうとした少年とセックスをして楽しませてあげなければなりません」
「はい。分かりました。私は学生とセックスをして楽しませてあげます」
「それでは、五秒後に貴方は今の会話を忘れてしまいます。5、4、3、2、1、はい」
ぱんと手を叩けば、その瞬間に客引きの女の目に正気が戻った。
女はおもむろに俺の腕を組むと、甘えるように胸をすりつけた。それだけで俺はドクドクと鼓動が速まった。
「ねえ、それじゃあいこっか」
女は俺の体をひっぱって、そのままラブホテルへと向かった。
女の横顔は完全にその気で、頬は発情したように朱色に染まっていた。
ラブホテルのキーを受け取り、部屋に入るまで女は全て自分から行動した。そしてすぐに服を脱ぎ捨てる。
ベッドの上で誘うような魅惑的な声を出した。艶めかしい声に、俺は一瞬で勃起した。
催眠術にこの女は支配されている。それが喜びを生んだ。
俺ははやる気持ちを抑えながら服を脱いで全裸になった。女の上にのしかかる。
その仕草が乱暴だったためか、女は小さく悲鳴を上げた。が、すぐに表情に笑みを取り戻す。
「ねえ、君は何をしてもらったら気持ちいい? 何でもしてあげるわよ。手でシコシコしてあげるのがいい? それとも口でジュポジュポ? それかもう最初から入れちゃう」
指先でペニスを弄ばれて、俺は早速にも射精しそうだった。
仮にも童貞なので、全裸の若い女を見るだけで興奮が抑えられない。
既にドクドクと先走りの汁がこぼれ落ちていた。ひくひくと尿道口から精液が噴き出ようとしているのが自分でもわかる。
視線が初めて見た女性器に集中してしまう。それだけで女は俺の様子を理解したようだった。
「ふふ、きつそうね。もうビュッビュッって出てきちゃいそう」
「あ、うあっ」
「見たところ学生だものね。こうされたら弱いのよね。気持ちいい?」
しゅこしゅこと手でペニスを摩擦して、女は俺の反応を見た後におもむろに両足を開脚した。さらに細部までヴァギナの形が見える。
自分の鼻息が荒くなるのを感じた。女は笑った。
「ここに入れたら気持ちいいから、入れちゃいなさい」
その言葉に反応して俺はそのままいきりたったペニスを女のヴァギナへと挿入した。ずるりとこれまで体験したことがない膣襞の感覚に、それだけで背中が震えた。
女は挿入されたペニスを笑いながらぎゅっと絞った。それだけで限界に達する。
俺はびゅくびゅくと射精していた。膣の中に入れただけで女の中に子種を放っていた。目の前が真っ白になるほどの気持ち良さ。
射精がこんなにも気持ちいいなんて、オナニーの経験しかなかった俺は知らなかった。
腰をつきだして、散発的に射精を繰り返す俺の腰に、女は両足をからめた。
「元気ねー。さすが学生。だけどまだ満足できないでしょう? 若いから。何回だってやっていいのよ」
女は赤の他人とこうしてセックスをしている現状にまるで疑問を抱いていないようだった。
これで当然とばかりに、俺の快楽の手助けをしようとする。それが俺の心の中の支配欲と結びついた。
知らない女を支配して、しかもコンドームも使わずに膣内に射精してしまったという背徳感が、性欲に結びついた。
もっと続けたい。もっと、射精してしまいたい。
この女を一晩で孕ましてしまいたいと思った。
気がついた時俺は、まだ完全に回復していないペニスで発情した獣のようにピストン運動を再開していた。猿のように盛る。
射精する。考えることはそれだけでいい。
初めて味わう女体で、俺はそれから気がすむまで膣内に射精を繰り返した。びゅるびゅると、溜まっていたものを全て吐き出して、それこそ亀頭の先がこすれて痛むぐらいまで。
初めての催眠術は大成功だった。
女は俺と別れる時まで、自分の現状に疑問を持っていないようだった。
恋人にするように軽いキスをして、最後に駅前で俺と別れる。
あの女が、あの後どうなったのかを俺は知らない。妊娠したのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。電話番号も何も聞かなかったので、俺には分からない。
ただ分かるのは、俺はこの催眠術を使えばこれから夢のようなことができるかもしれないという喜びだけだった。
後書き
見たまんま短編だけど、長編にもつながる仕様。
コメントやウェブ拍手で反響あったら、真面目に続き書くかもしれませぬ。
- 2007/02/03(土) 13:44:49|
- 催眠
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