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マブラヴ短編

悠陽×武ちゃんSS


 桜花作戦が終わってから二か月。
 オリジナルハイヴの破壊という結果を得て、人類は土壇場で息を吹き返した。
 先の作戦で多くの人員、資材を失った各国はまず国力の回復へと努め、いつ来るとも分からないBETAの襲来に備えている。
 そしてそれは日本帝国においても同様だった。
 佐渡島ハイヴ攻略からオリジナルハイヴ攻略まで、連戦でハイヴ攻略に乗り出すことになったために国力の疲弊は他国よりも大きい。
 それだけに国家をあげて、今は消耗した人材等の確保に奔走している。
 そして、そんな中で帝国議会は一つの法案を全会一致で可決した。
 出産支援に関する法案と題されたその法案には、出産一時金、育児手当の増加、女性の育児休暇期間の延長などといった項目が盛り込まれていた。
 とにかく子供を育てやすい状況を、苦しい状況の中でも確保するための施策になる。
 少なくとも、損耗しすぎた国民の数を増やさなければ根本的な解決にはつながらないという判断からであった。
 国をあげて日本では出産を奨励しているわけだ。
 そして、そんな状況の中で、この話は始まる。



「白銀中尉。話がある」
 凛とした声。横浜基地で通路内を歩いていた武に、切れ味鋭い呼び声がかけられた。
 顔を見なくとも、その相手が誰であるのか理解できる。
「月詠さん。どうかしたんですか?」
「内密に話がしたい。時間はあるか?」
「そりゃ、ありますけど」
「それならば、ついてきてもらいたい。人目がつく場所では進められない話だ」
 それだけ言い終えると、軍人らしいきびきびとした動作で真那は武に背を向けた。
 淀みない動作で、そのまま歩き始める。
 何の用だかさっぱり理解できていなかった武だが、それでもその背中に付いていく。
 少なくとも詳しい事情を語らずとも、呼びかけたのだから相応の理由があるのだろうと判断するぐらいには、武は真那のことを信用していた。
 やがて真那は一つの部屋の前で止まった。
 ドアを開いて、中へと入っていく。確か横浜基地で用意されている真那の部屋だ。
 それぐらいなら武も覚えていた。
 真那に続いて、武も部屋の中へと入っていく。
「それで、何の用なんですか?」
「……少し待ってもらいたい」
 月詠は自分の部屋であるにも関わらず、室内を入念にチェックし始めた。盗聴器の類が無いかを探しているのだろう。
 部屋の隅々に手を伸ばして、異常がないかを確認する。
「そんなに警戒するってことは、割と重要な話みたいですね」
 やがて真那がチェックを終えた。手持無沙汰の感があった武はようやく言葉を発することができた。
 真那は呼びかけに、静かに頷いた。
「その通りだ。これは帝国にとっても、一大事と成り得る」
「へえ……、それほどなんですか。だとしたら俺じゃなくて夕呼先生に話を通したほうがいいような気がしますけど?」
「いや、その必要はない。今回、我々が必要としているのは国連の助力ではない。白銀武という個人の同意なのだからな」
「俺、ですか?」
「そうなる。これを見ろ」
 真那はそこで部屋の机の上に置いてあったアタッシュケースから一枚の紙を取り出した。
 受け取った武はどれどれ、と紙面を覗き込む。
 そこにはこんなことが書かれてあった。
 出産支援に関する法案。先日、議会で可決されたらしい。半年後には施行されるようだ。
「へー、ほー。子育てですか。まあ、この時期、優遇措置でも作らないと出産しようと思う人は増えないでしょうね。で、これが俺と何の関係が?」
「そこではなく、次のページを読んでみろ」
「次ですか? ……んーと、ここか」
 素直に武は言われた箇所を読んでみた。 『――そのため、我が国の象徴である――(中略)して頂きたく、……であるため――』
 ちらりと流し読みしてみれば、何やら漢字が一杯であった。
 武は読むのが面倒くさくなってしまったが、真那の前であったために渋々ながら文字の羅列を読んでいった。
「なになに……。えーっと国民の出産に対する意識を高める手段として、幾つか対策が考えられるが(中略)、その中でも我が国の象徴である殿下が子をなされることは国民に対する強いメッセージと――って、あれ。殿下、結婚するんですか?」
 噛み砕いて説明すれば、武の持つ紙には、議会が煌武院悠陽殿下に、国力の回復ひいては国民の数の回復が重要であることを国民に知らしめるために、象徴として世継ぎを作ることを要請し、それを殿下が受諾したと書いてあった。国策のために世継ぎを作る。それは何とも庶民的な感覚から離れた話であったが、そこはそれ。日本帝国のトップであるお偉いさんとなればそういう話も出るのだろうと武は理解した。
 何となく殿下が誰か顔も知らない男の手に渡るのは、癪ではあったが仕方ない。
 ただ理解できないのは、どうしてこんな話をわざわざ月詠が武に教えてくれるのかだ。
「婚姻が決まったわけではない。お世継ぎを作られることを殿下が受諾されたというだけだ」
「それ、似たようなものだと思いますけど」
 自分には関係のないやんごとのないレベルの話であるためか実感がわかない武は、言い回しの違いを正確に理解できなかった。
 貴族だの血統だの何だのは、理解の範囲外にある。
 そんな武に向かって、月詠は首を横に振った。
「違う。いいか。心して聞いてもらいたい。まだ殿下のお相手は決まっていない」
「へえ。てことは今から決めるんですか。誰だか分らないですけど、その相手は運がいいですね」
「中尉はそう思うか?」
「そりゃもう。話をしたのは短い間でしたけど、それでも殿下が一本筋の通った、尊敬できる人だっていうのは分かりましたから」
 記憶の中にある煌武院悠陽殿下は儚げな美しさを持った女性でありながらも、その芯は確固とした信念のもとに固く、大和撫子然とした人物であった。
 雪の中、周囲の景色から浮かび上がるように映える美人であったことも、鮮明に武は覚えている。
 男とは見知った美人の結婚を悔しがる生き物なのだ。
 真那は武の反応に小さく首肯した。
「そうだ。殿下は為政者としても、個人としても尊敬すべき人物だと私も考えている」
「ですよねー」
「そこで最初の話に戻るが、殿下はお世継ぎを作られることを受諾された。そのため殿下のお相手として議会は幾人かを候補として殿下に打診した。その誰もが殿下のお相手として血筋、個人の能力、人柄、問題のない方達ばかりだ」
「うーん、生まれながらの恵まれてる男どもってことですか。羨ましい」
 庶民生まれの庶民育ちの武とは、まったく逆の生きざまを歩んできた者達が悠陽の連れ合いとなることはごく自然な流れに思える。
「だがしかしだ、よく聞け中尉。殿下はそこで条件を付けられた」
「条件、ですか?」
「そうだ。殿下はこう仰られた。国策の重要性も、象徴としての重要性も、理解している。ただし自分が子をなす相手は自分で選びたい、と」
「ほうほう。殿下に恋人がいたとは、知りませんでした」
 部屋の中。興味深げに武は相槌を打つ。
 そんな武を見ていて、真那は頭痛がしたのかこめかみを押さえた。
 そして、一拍遅れてから一通の手紙を武へと差し出す。
「……まずはこれを読んでもらいたい」
「何ですか、これ」
「殿下が中尉へとしたためたお手紙になる」
「殿下が、俺に、ですか?」
 いぶかしげな表情を浮かべながらも、武は渡された手紙を確認した。柔らかく達筆な文字で、煌武院悠陽という名が記され、同時に厳かな印が押されている。
 多分本物だ。武は普段よりはいくらか丁寧に封を切った。
 中から手紙を取り出す。
 そして文面を最初から最後まで読んで、一時停止する。そこには想定していなかったことが書かれていた。
 流石の武もびっくりしすぎて、開いた口がふさがらない。
「……はあっ!?」
「これは冗談の類ではないぞ」
「え? マジですか? ていうか俺、帝国からは死人としてマークされてると思うんですけど」
「それは一昔前までの話だ。桜花作戦にてオリジナルハイヴへと突入し、ただ二人生き残った衛士の一人ともなれば、帝国上層部内でも中尉のことを英雄視する者はいる」
「いやていうかそれでもこの手紙の内容はおかしいというか」
 混乱してわたわたし始める武。
 その狼狽ぶりを冷静に観察しながら、真那は静かに断言した。
「続けて言うが、その手紙は殿下御自身がしたためたものだ。決して雑に扱わぬように、頼む」
「マジですか!?」
「香月副司令にも了承は取り付けてある」
「夕呼先生ーっ!?」
 武はついに混乱が極まって叫んだ。それほどに手紙の内容はぶっとんでいた。
 真那から渡された悠陽が書いた手紙。そこには意訳すれば次のようなことが書かれていた。
『――お見合いを、しませんか?』
 
 

 そして、それから二日後。
 武ちゃんは帝都へと向かう移動用の車両の中で自分の上司からのありがたーいお言葉を反芻していた。
『こここ、これどういうことなんですか夕呼先生! どうして許可まで!?』
『ああ。それ? 別にいいじゃない。白銀が誰とくっ付こうと知ったことじゃないし』
『先生、俺どうしたら……ッ?』
『自分で考えなさい。あたしはね、まりも以外のお見合いに力を貸さないって決めてるのよ』
 以上。回想終了。
 夕呼は素晴らしく他人事な対応に終始した。
 武は混乱したまま気がつけば帝都へと向かっていたことになる。しかも車中でありながら、先ほどからお付きの方らしき人たちに体のサイズをメジャーではかられたりしている。
 武はなされるがままだ。
 何でも和装など一着も持っていない武のために、大急ぎで見合い用の服を仕立て上げることが目的であるとか。
 体中をぺたぺた触られているが、それも気にならないぐらいの混乱状態。
「……あと一時間ほどで帝都まで着く。そろそろ弛んだ気を引き締め直せないか?」
 車の助手席に座る真那が、バックミラー越しに武の姿を観察して一言。
「いや、そんなことを言われても。俺、庶民ですし」
「気持ちは分かるが。せめて中尉を指名した殿下の顔が潰れない程度には、しっかりとした姿を見せてくれ。頼む」
「ですよね。そうですよね。……小物なりに頑張ります」
「クーデターの際には殿下を相手に、物怖じせずに会話をしていたようだったが――」
「あれは非常事態ですから。今はちょっと状況が違うと思えませんか? ていうか、うーん。俺、殿下と話したことそれぐらいしかないんですけど。どこがどうなってこんな話になったのか。未だに謎すぎて理解できない」
「そのことについては、後々、殿下御自身から説明があるだろう」
 真那はそれだけ答えて、視線を正面へと戻した。
 武としてはそう言われてしまえば、もう返す言葉がない。あがー。そんな変な言葉しか出なかった。
 煌武院悠陽という存在は、武にとってどんな相手であるのか。
 考えるに難しい所がある。
 一番適切な言葉は冥夜の姉、だろうか。元いた世界では既に鬼籍に入っていた人物である。そしてクーデターでは自分の戦術機に乗せ、一時ではあるが話をした。
 関係としてみればそれだけである。それだけであるが、頭の中に何かがひっかかる。
 ずっと昔。何かが原因で悠陽と恋仲になったことがあるようなないような。
 敗戦濃厚の地にて共に武御雷を駆った記憶があるような無いような。
 思いだせそうで思い出せない。いや思い出そうとしたことすら忘れてしまうような。
 それは不思議な感覚だった。
 まるで記憶がこぼれおちていくような。
 とは言っても、武にとって悠陽と直接話をする機会などクーデター以外にあったはずがなく、それらの違和感はただの勘違いというのが正しいのだろうが。
 そんなもやもやとした思索を巡らせていると時間は過ぎ去り、いつしか移動車両は目的地へと到着していた。



 帝都に到着してから、武を様々な視線が出迎えた。
 一般に武がこちらまでやってきた理由は知らされていないのだから、何しに国連の衛士が来たんだろうって訝しげな視線が様々だ。
 しかし中には武の訪問理由を知っているのか、偉そうな爺さんが忌々しげに舌打ちかましてくれたり、逆になぜか微笑を浮かべながら挨拶をしてくれる人もいた。
 帝国の中枢部においても、反応は多岐に渡った。そういった意味では飽きないが、それ以上に精神的に来るものがあった。
 現状では早く悠陽に会ってお家(横浜基地)に帰りたいなあというのが正直な気持であった。
 今は一人部屋をあてがわれて、明日の悠陽との面会を待つ身である。
 部屋の周りには護衛の名目で多くの人員が配置されている。
 正確には監視の面が強いのだろうが。
 針のむしろであった。
 武は窓から眺められる外の景色をぼうっと見つめながら、息を吐いた。
 すると、とんとんと扉が叩かれる。
「月詠だ」
「どうぞー。勝手に入ってきてください」
 ようやく話が分かる、というか見知った人間が訪れてくれた。
 武のテンションがやや復活する。
「どうした。浮かない顔をしているな」
「いや、これが素の顔なんですよ」
「そうか。まあ突然のことだ。戸惑うのは分かる。それとだ、殿下は明日帝都へと戻られる。そのため中尉と顔を合わせられるのは夕刻からになる。おって、使者がこの部屋へと訪れるだろう」
「ですか。わざわざ知らせてくれてありがとうございます」
「気にするな。殿下の配慮があったとはいえ、今の私は干されている状態でもあるからな。雑用であれ、殿下の力になれるのならば、それは私にとっても望むところだ」
「相変わらず軍人の鑑ですね。見習いたいけど俺じゃ無理です。そういうの」
 きびきびとした月詠の言葉や態度に、武は頬をかいた。
 ショタコンかつ切れるとヤンキーに変化する真那様が懐かしい。そんなことを思いながら真那を眺めるが、不思議そうに視線を返されるだけだ。
 多分こちらの真那は切れても軍人口調だろうし、ショタボーイにも興味を示しそうにない。
「ところで、つかぬことをお聞きしてもいいですか?」
「何だ?」
「月詠さんの男の趣味って、年下趣味ですか?」
「年下? それは中尉のような?」
「いや、それより更に年下で。しかもかなり幼い感じの」
「……いきなり何を言っているのか理解できんな」
「こう、ぷにぷにしたほっぺたの、半ズボンの少年に心惹かれたりしませんか?」
「だから、何を言っている……?」
 困惑したように眉根を寄せる真那。この世界に美琴ではなく尊人がいたならば、この疑問を解くこともできたのだろうが、今となってはそれもかなわない。
 真那がショタコンという修羅の道に落ちたのは生れついての先天的なものであるのか、それとも周囲の環境による後天的なものであるのか。
 実に謎であった。
 武は一人腕を組んで、うんうんと頷いた。
 そんな武を真那は冷めた目で見ている。
「いきなり何を言い出すかと思えば、勝手に一人で結論を出したようだが」
「いえ、ただの気まぐれなので気にしないでください」
「そうか。中尉が簡単に読み切れる性格をしているとは考えていないからな。まあ、いい」
 そんな感じで武は知り合いのいない場所で時間を潰していくのだった。



 そして一日経って、遂に悠陽と顔を合わせる時がやってきた。
 わずか一日で用意された触り心地のよい和装に着替えさせられ、そのまま武は広大な屋敷へと連れていかれた。
 根っこが庶民で大邸宅におーっと感動していたら案内の人間から背中をひっつかれる。
 慌てて奥の部屋へと向かう武であった。
 そしていくつもいくつもいくつもある部屋を脇に進んで行って、その最奥。
 豪華で厳かすぎて、武だと完璧に場違いそうな部屋に、悠陽はいた。
 仕立ては良くとも来ている人間に気品がないので七五三に見える和装を見ると悠陽は口元をほころばせた。
「久しぶりですね。白銀」
「あ、殿下。えーと、本日はお日柄もよく――」
「そう慣れぬ物言いをせずとも構いません。座りなさい」
 広い畳の部屋の中央。檜から切り出したと思われる見事な細工が施された机に、言われた通り武は座った。
 ぎっちぎちの正座である。
 その姿を見て悠陽は微笑んだ。
「楽にして構いません。控えの者は遠くにやってあります。この部屋での会話を聞く者は誰もおりません」
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて」
 武はそこで膝を崩した。軍隊生活が長くとも、正座する機会など滅多にない。しかも武は格式ばった動きは苦手だ。
 緊張もあいまって、既に足がしびれかけているところであった。
 悠陽の言葉は正直助かった。
 そんな武が膝を崩すのを見終えた後、悠陽は話を切り出すためにおほんと咳をした。武は気付かなかったが、その頬はわずかに赤い。
「それで今回、招いた理由についてですが、手紙には目を通したでしょうか」
「あ、あれですか。確かに先日読ませてもらいました」
「そうですか」
 頬の朱色が取れぬまま、考え込む様に悠陽は大きな瞳を瞼で閉ざした。
 武としてはどうしたものやら、である。
 だが少しばかりの時間の後、悠陽は再び口を開いた。
「手紙に記したように、私は近いうちに子を生さねばなりません。これは国家としての決定であるために、余程のことがない限りは拒否すべきではないと考えます」
 早口でそう語ってから悠陽は一呼吸置いた。
「――などというのは建前になるやもしれません。結局のところ、私は、そなたが、白銀武のことが好きなのです」
 そして唐突の告白。最初は前ふりを述べる気配があった悠陽であったが、一気に切り込んできた。
 これだけ正面から逃げ場のない告白を受けると、朴念仁の武であっても頬が赤くなった。
 まあ告白した当人の悠陽のほうが顔の赤さは色濃かったが。
「そ、そうですか」
「そうなのです」
「そ、そうなのですか」
「まさか白銀、冗談とでも受け取っているのではないですか?」
 おうむ返しになった武を上目遣いで詰問する悠陽。
 武はその言葉に背筋をしゃんと伸ばさざるをえなかった。
「いえっ、まさか。ただどうして俺なのかなと思いまして」
「……確かにそれは、そなたにとって疑問に思うところはありましょう。私とそなたが共にあった時間は余りにも短く、その時に艶めいた会話を交わしたわけでもありません」
 そこで考えをまとめる様に目をつむる。
「ですが、その短い間だけでもそなたの存在は私にとって衝撃でした。あの者、いや、冥夜と親しくしている衛士としてとらえていたそなたの存在が、いつしか私の中で特別なものに変わっていったのは事実なのです。その詳しいところを一つ一つ、どこがどのように好ましかったのかを語ってもよいのですが――」
「い、いえっ、信じます。信じさせてもらいますので、それ以上は!」
 更なる追加攻撃を受ければ武の炎上は必至であった。
 慌てて悠陽を押しとどめる。
「分かってもらえたようで何よりです」
「実に胸にくる言葉でした。た、ただ、殿下のお相手が俺ではかなりの問題があると思うのですが。殿下も知らないわけではないでしょう。白銀武という男は帝国の記録においては死亡しています。月詠中尉はその意味で、かつて俺を死人と呼びました。そしてそうなった事情があるのですが、俺はその理由を恐らく殿下に語ることができません」
「……その件に関しては耳にしています。第四計画に関わるそなたの情報、軽々しく口外できるなどと初めから考えておりません」
「そこまでご存じでしたか」
「クーデターの後、そなたのことを重点的に調べたことがあります故。不快に感じたならば謝りますが」
「いえ、当然の対応だと思いますよ」
 少しだけ静まる室内。武は汗ばんだ手を握り締めた。
「そう言ってもらえて何よりです。――話を戻しますが、日本帝国外の男性とは言え、そなたに対する評価は高いのです。今回の決定に関与している者達も、そなたならばと納得する声が多くありました」
「そうなんですか」
「とは言ってもこれは外面の話。そなた個人にとっては何の意味もありません。また、そなたに既に心に決めた相手がいるのならば、諦めることもやむなしと考えています。そなたには特定の相手はいないと調査をしておりますが、こちらが探し得なかった場合もありえます。この場で尋ねますが、どなたかそなたには想い人はいるのですか?」
「いや、特に今はいませんけど」
 何を隠そうこの世界の武ちゃんはどっちつかずであったためにループから解放されていないのだが、それはまあ置いておく。
「そもそも煌武院家に生まれた時より私達は、望む望まぬに関わらず、この身をお家のために国のために役立てることは覚悟しておりました。いつかこのような日が来ることは分かっていたのです。ですから、この場で話を断ったとしても、そなたは何の落ち度もありません」
「あの、重大な問題だと思うんですけど、俺がもしこの話を受けた場合は帝国軍に移動という形になるんですか? それは困るんですが」
 ふと思いついた疑問を武は口にする。
「それについては考慮するつもりです。そなたは国連に所属したままで構いません。無論、いつか私が将軍の任より解かれ、五摂家より新たな将軍が選ばれた折には傍にいてもらいたいのですが」
「ですか」
 武は返答を聞いてから、考え込む様に口を閉ざした。
 長い時間が流れる。
 やがて沈黙の後に悠陽が再び口を開いた。
「……やはり即答はできませんか」
「すみません。ちょっと事が事だけに悩んでいて」
「それも当然でありましょう。唐突な話をもちかけたのは私なのですから、そなたに落ち度はありません。それよりも今日中に結論は出そうにありません故、本日は泊っていきなさい、白銀。六連休を香月副司令より与えられていると聞きました。まだ時間はありましょう」
「あ、はい」
「――真耶」
 静かにそう悠陽が名を呼ぶと、ふすまの奥から緑色の髪が美しい侍女と思われる女性が現れた。
 その外見は真那に似ているが、雰囲気が異なる。
「白銀を、部屋まで連れていきなさい」
「分かりました。白銀様、こちらへ」
 すっと音も立てずにふすまが開けられる。それを見た後、再び悠陽を見て微笑まれる。
 武は軽く頭を下げてから立ちあがった。
 案内されるままに部屋へと通される。
 そして真耶が去り、一人になった部屋の中であがーと頭を抱えるのだった。



 夜になる。武は夕食を悠陽と共にした後、用意された部屋に一人籠っていた。
 部屋の中心で正座をし、腕を組んで黙考する。
 この話、受けるべきか受けざるべきか。
 目をつむりながら考える。
 悠陽は美人である。可愛い。男なら目の前に提示されれば一秒と持たずに食いついてしかるべき存在なのだが。
 だがしかし、とてつもなく重い存在でもある。
 何といっても政威大将軍。武ごときが手を出していいのかと言えば、難しい。
 本人が良いと言っているんだから、つまんでしまえばよろしいと考えることができるほど武は軽くなかった。
 しかし状況が状況である。
 どちらにせよ世継ぎは作るということは、ここで武が断っても誰かの手にあの美人が渡ってしまうわけで、そうなるなら本人が望む自分が相手をするのが最も良いのではないか。
 いや、この考えさえも自分の中の悪魔(性欲)が自分をそそのかそうとしているのではないか。
 武は悩んだ。
 悩み続けていつの間にか二時間ほど経過していた。
 へたれなんだか真面目なんだか。
 そして更に時間が経った頃。廊下側から、鈴の音を転がしたような声がした。
「――明かりがついているようですが、まだ起きているのですか?」
「あ、殿下。はい」
 慌てて立ちあがった武は用意された部屋着を正して、悠陽を出迎えた。
「眠れないのでしょう。私も今日は寝付けないのです。少し庭を歩きませんか?」
「えっと、そうですね。ご一緒させてもらいます」
 少し悩んだ後に、武は提案に従うことにした。



 煌武院家の邸宅は見事なものだった。成金に多い派手な豪華さといったものはない。
 だが見るだけで心を落ち着けてくれるような、歴史を感じさせる素朴な美しさがあった。それは調和した芸術性。
 どこかこのような純和風の庭を見ていると、冥夜のことを思い出す。
 この庭に冥夜が立ったならば、それだけで絵になったことだろう。
「どうかしたのですか?」
「いや、ふと何となくなんですけど。このあたりに冥夜がいたら、さぞ絵になる光景だろうなって思いまして」
「そうですか。……そうですね。あの者ならばこの庭にもよく溶け込んだことでしょう」
 夜空には上弦の月が浮かんでいる。BETAの侵攻が始まってより人類の文化は衰退したが、逆に人と星との距離は縮まった。
 きらやかな星々が、庭からでも見ることができる。
 今この時だけは、屋敷の中は平和であるように思えた。それが例え十数年の仮初であったとしても。
「そなたは今も冥夜のことを忘れてはいないのですね」
「当然でしょう。多分死んだって、あいつのことは忘れませんよ」
「そうですか」
 嬉しげに悠陽は笑った。
「もし良かったら、そなたの知る冥夜のことをまた話してはくれませんか? あの者が何を悩み、何も思い、何を決断したのかを知りたいのです」
「俺で良ければ、幾らでも話しますよ。そうですね、まずは何から話せばいいのかな――」
 単純な傾向がある武は昼間の緊張はどこへやら。
 それからつらつらと冥夜について語り始めた。
 この世界での冥夜との付き合いはそこまで長い時間ではない。だが決して短くはなかった。そして心の結びつきは強かった。
 武はそう思っている。そして冥夜が生きていたことを少しでも多くの者に知ってもらいたいと思い、長々と自らの記憶を語った。
 武から見た冥夜が何を考え、何を思い、何を決断したのかを。
 その誇り高く美しかった生き様を。
 語り始めれば、長くなった。悠陽はただじっと武の話を聞いていた。
 星の位置が変わるほど長い時間、武は語った。
 悠陽にだけは冥夜のことを、武の知る限り覚えてもらいたかったのかもしれない。
 いつの間にか気温が寒くなり、武はぶるりと肩を震わせた。
 そこで気がつく。庭で長話をしすぎた。悠陽に風邪をひかせてしまっては不味い。
「……すみません。寒くなってきましたね。帰りましょうか」
 武は腕をさすりながら、傍らに立つ悠陽に呼び掛けた。
 悠陽はそうですね、と呟いた。
 部屋へと戻る途中、悠陽は何も言葉を発しなかった。武は悠陽の歩調に合わせるようにゆっくりと足を進める。
 そしてやがて武の部屋の前へとたどりつく。悠陽の部屋はさらに奥になり、武が足を踏み入れて良い領域ではない。
 自然とこの場所で別れることになった。
「それでは、ここで失礼します。お休みなさい」
 武がそう告げると、悠陽は武の手を握った。
「……殿下?」
 いぶかしがる武に、悠陽は静かに抱きついた。崩れ落ちそうになるその体を武は空いた左手で支えた。
 悠陽は泣いていた。頬を涙が音もなく零れ落ちる。
「……口頭で報告を受けた時は、納得できたと思っていたのです」
 悠陽は絞り出すように言葉を発した。
「冥夜が衛士として戦い抜いたということを」
 武は何も言えなくなった。
「……本当に納得できたと、そう、思っていたのです」
 悠陽は弱々しい力で武に抱きついた。声が震えている。その背中を武はそっと抱きしめた。気持ちはよく分かった。
 泣き顔が見えないように悠陽の顔を自身の胸へと寄せた。
 悠陽はそれからしばらくの間、声を出さずに泣き続けた。
 そして、ようやく泣き終えた悠陽は赤く目をはらしたまま、笑みを浮かべた。
「……恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
「俺も、経験したことがあるから分かります」
 武はそう答えた。
 寄り添った体勢のまま、悠陽は武の様子を窺うように言葉を発した。
 背に回された腕に力が込められる。
「白銀――」
「……なんですか?」
「そなたが、私を好いていなくても良いのです。この身は煌武院を次代へとつなげる存在。だから個人として愛されたいなどと望むつもりはありません」
 ですが、と悠陽は言葉をつなげた。
「それでも、今夜だけは共にいてもらえないでしょうか」
 すがるような視線。どこか冥夜に似ているが、それは違う人物だ。
 武の胸が締め付けられる。
 逡巡は一瞬だった。その細いおとがいに手を伸ばす。悠陽が目をつむる。
 柔らかな唇に、武は自分のそれを重ねた。



 着物を脱がせるのは少しだけ手間だった。
 だが布団に悠陽を組み敷いた悠陽は従順に、体を動かしたためにすぐに生まれたままの姿になる。
 武自身、服を脱ぎ去りながら悠陽の唇を吸いつけた。先ほどの触れあうだけのものとは違う、深い口づけ。
 悠陽は拒まなかった。
 たどたどしく背中に腕を回してくる。処女であるのだろう。動作がやはりぎこちない。
 その緊張をほぐすために、ことさら丁寧に武は悠陽を愛撫した。
 胸からあばら腰へと移り、へそから下腹部へとまさぐるように手を伸ばす。
 触れただけで悠陽の体の美しさは分かった。武御雷を駆るために衛士としての訓練も受けているためだろう。引き締まった体。それを白雪のようにきめの細かい肌が覆っている。
 またキスをする。視線が交わった。明かりを消した室内でも、相手の瞳ぐらいなら見える。
 口付けから解放した折、悠陽ははあと息を吐いた。
 休む間を与えず愛撫する。左肘を敷布団につき、覆いかぶさる状態で武は悠陽の頬を撫でた。
 ついで指を甘噛みする。緊張しているのか汗の味がした。また口づけをして、愛撫を繰り返す。悠陽は切なげな声を漏らし始めた。だが反応はまだ固い。
 武はすでに完全に勃起していた。
 そそりあがった物は悠陽を抱きしめるたびに、その体にぶつかる。しかし焦ることなく、悠陽を緊張をほぐすことに集中した。
 痛みを感じないように、形の良い胸を乳首の周辺から揉みながら、もう一方の肘をついている手で武は悠陽の手をそっと握った。
 悠陽の両足の間に、さらに腰を入り込ませるために膝を立てさせる。ぐっと下腹部が密着した。
 武は悠陽の肩口に口付けした。そのまま胸から脇腹、へそへと舌を移動させていく。舌がなぞる悠陽の体が武の唾液で濡れる。
 やがてそれが下腹部へと到達しようとしたところで、悠陽はびくんと体を震えさせた。
 その反応を感じ取って武は舌を悠陽の体から離した。
「……怖いですか?」
 悠陽は指に絡める力を強めた。
「いえ、ただそれより、……頼みがあるのですが」
「頼み?」
「こうしている間だけは、私のことを、あの者のように名前で呼んでくれませんか? 煌武院家の悠陽としてではなく、ただの悠陽として」
 悠陽の視線は切なげだった。
 武はその顔に触れるだけのキスをした。ついばむように軽く。
「……分かった。なら俺のことも武って呼んでくれよ、悠陽」
 名で呼ばれ、ただの個人として扱われたことがくすぐったかったのか悠陽は薄くはにかんだ。
 悠陽に覆いかぶさるような姿勢の武は、笑い返した。
 そして二人はどちらからというわけでもなくお互いの体に手を伸ばした。
 夜は更けたとは言え、まだ十分に時間がある。
 一夜の交流は時間が経つにつれて深まっていった。



 そして朝。昔から誰かに起こされないと起きられない武は、ふと目が覚めた。
 肩にかかる重みに目を向ける。すうすうと寝息を立てている。
 煌武院悠陽殿下その人であった。
 二度、まばたきを繰り返した。
 三度目で相手が目を覚ました。寝起きはいいらしい。呆けた様子も見せずに、武の視線に気がつくと花がほころぶように笑った。
「そなた、存外に朝が早いのですね。白銀」
「ああ、はい。おはようございます。じゃなくて、普段は寝起き悪いんですけどね。今日は少し勝手が違ったからか目が覚めました」
「……もう元の口調に戻ってしまうのですか。それは余りにもつれないというものではありませんか?」
 悠陽はわずかながら拗ねるように、そしてからかうように言葉を発した。
 武は朝から難易度の高い詰問にあははと乾いた笑いを上げた。
「いやー、昨日はノリというか朝になるとさすがに。それによく考えたら、この部屋が見はられてる可能性もありますし、うかつなことは、なんて」
「よく気づきましたね。――真耶。私は白銀と内密の話があります。離れなさい」
「畏まりました」
 どこかへと向けて声を発した悠陽に従って、どこかから声が返ってくる。
 冗談で言ったつもりだが本当に傍に控えている者がいたらしい。当然ではあるのだろうが。まるで気配が読めなかった。
 武は戦慄した。
 そして二秒後に、ってことは昨夜のことも全部観察されてたのかァッ!? と致命的な事実に気がついた。
 背筋が震えるほどの戦慄を覚える。
 ――俺 は 昨 日 殿 下 に 何 を し た 。
 拒まないから色々やってしまった男は慌てた。
「どうかしたのですか? 手が震えているようですか」
「い、いえ。何でもありません。ていうか殿下こそ、その、お体は大丈夫ですか? あのー、俺、乱暴だったかもしれません」
「乱暴だった、かも?」
「いえすいません。乱暴でした。ごめんなさい」
 慌てて頭を下げると悠陽は楽しげに笑った。
「冗談です。そなたが頭を下げる必要はありません。男女の交わりが斯様なものであることなど、幼少の頃より知っておりました故」
「いや、それにしても昨日は我ながら抑えが利かなくて。痛いところとか本当にありませんか」
「そのようなものありはしま……いえ、そうですね。少しまだ痛みます」
 悠陽は首を振ろうとしたが、言葉を止めた。そして布団の中でぴたりと武に再び寄り添った。
「昨夜のことでそなたが気に病んでいるのならば、もう少しだけこのままで。よいですね?」
 悠陽の言葉に武は一瞬、ぽかんとした顔を浮かべた。
 だがすぐにくつくつと笑みをこぼす。
「分かりました。殿下のお言葉通りに」
 武は、胸元に頭をのせてくる悠陽を抱き寄せた。
 


<後書き>
ただ最後のシーンが書ければよかったので、設定に関して問題があるのは自覚しております。
なので見逃してください。まりもちゃんは俺の嫁。
  1. 2008/03/11(火) 17:09:29|
  2. マブラヴ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10
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コメント

>『――お見合いを、しませんか?』
ぜ ひ と も 。

更新お疲れ様です。
引越し準備がどうなっているかはあえて聞きません(ぉ
冥夜は俺の嫁!


  1. 2008/03/11(火) 17:40:56 |
  2. URL |
  3. T字 #QviUlbCQ
  4. [ 編集]

お疲れさまです。
次はまりもちゃんとかどうでしょう?
夕呼は俺の嫁。
  1. 2008/03/12(水) 21:44:14 |
  2. URL |
  3. ぽんと #twG6w12.
  4. [ 編集]

更新お疲れ様です。
goodですね。とても気に入りました。
ここであえて真那は俺の嫁、とか言ってみる。
  1. 2008/03/12(水) 22:17:38 |
  2. URL |
  3. シオン #32LcMWos
  4. [ 編集]

ここは熟女好きが多いいんたーねっつですね
……ん? 窓に妙な影が (日記はここで途切れている)
  1. 2008/03/14(金) 04:30:25 |
  2. URL |
  3. 無何有 #pYrWfDco
  4. [ 編集]

……あれ? ということは、純夏はすべてを把握していない→脳への負担が少ない→復活?
  1. 2008/03/14(金) 18:47:40 |
  2. URL |
  3. 123 #KD5XUSzs
  4. [ 編集]

いやいや素晴らしい。
設定に穴があるのは短編だからってことで気にしなくてもOKではー?
後晴子は俺の嫁。
  1. 2008/03/14(金) 21:24:22 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

べりーぐっど、です
そして彩峰は俺の嫁
  1. 2008/04/25(金) 23:30:59 |
  2. URL |
  3. しし #-
  4. [ 編集]

とてもぐーれいとぉでした
そして俺は茜の婿
  1. 2008/05/03(土) 10:36:32 |
  2. URL |
  3. 闇の羽 #-
  4. [ 編集]

Niceな短編でした。
霞は俺の妹
  1. 2008/07/28(月) 21:08:27 |
  2. URL |
  3. #sSHoJftA
  4. [ 編集]

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このコメントは管理者の承認待ちです
  1. 2009/08/29(土) 00:15:08 |
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